政治・経済・社会にわたる

前節で取り上げたティム・ワーナーの著書の第十二章の標題に用いられた、「in different way」というのはどういう意味なのか。そこで取り上げられた、
「(6)1976年のロッキード事件は、CIAにとってはそれまでの工作が暴露される恐れのある危険な事件であった」
の中身をもう少し詳細にみていくことで、それが解明されるのではないかと思われます。
B・フルフォードによれば、この事件でロッキード社が全日空の旅客機に自社のトライスターを導入させるため日本の政界工作に使った金は30億円、そのうちエージェントの児玉が受け取ったのが21億円、田中に渡ったのは5億円。つまり30億円のほとんどは児玉に渡っていたにもかかわらず、捜査やマスコミの関心は田中に流れた5億円ばかりに集中し、児玉が受け取った金については全く解明が進まなかったとされています。
この事件については、当時から金銭の受け渡し場所が二転・三転したことがジャーナリストの田原総一郎や、コーチャン・クラッターの嘱託尋問に奔走した堀田力により明らかにされています。この嘱託尋問調書が後に裁判所で不採用になり、田中の有罪判決が確定するわけですが、その間複数の事件関係者の不審死や、国会での証人喚問を控えた児玉本人の病状が急激に悪化したことなどが取り沙汰されていることも事実です。また事件そのものも、日本での展開以前にアメリカ上院公聴委員会で暴露された訳ですが、ロッキード社の裏金が渡った日本政府高官の名前は今も伏せられたままです。ただ最近になって、発覚直後の2月に当時の中曽根幹事長からアメリカ政府宛に、「この問題をもみ消すことを要望する」とした公文書がアメリカで見つかったともいわれています。
フルフォードはさらに、ロ社の狙いは旅客機ではなく軍用機-自衛隊のF104戦闘機・P3C対潜哨戒機--の選定にあったのだと続けます。「事件の本丸が軍用機となれば、動くカネは旅客機などとは比較にならない程大きい。」「ロ社の日本側代理人であった児玉は自民党の大物たちに働きかけ、これについての賄賂を手渡した」のだというのです。「検察や国会は軍用機ルートの真相解明をすべきだったのにそうはせず、田中の問題だけを取り上げて欧米のマスコミに騒がせるようCIAが工作」したのだとされています。
では何故、田中だけに焦点が当てられたのか。当時の田中は、1972年に電撃的に中国を訪問して「日中国交正常化」を実現し、また米石油メジャーの独占支配に抗して、独自のエネルギー・資源確保に向けた「日の丸外交」を展開したことはよく知られています。アメリカは日本が自国の核の傘から離れるのではないかと危惧し、この機会に田中だけを潰そうとしたのではないかとフルフォードは言うのです。そして歴代の政治家の対米路線の違いから、親米の岸・福田・小泉・安倍等が事件・事故と無縁であったのに対し、アメリカべったりからの脱却をめざした田中・竹下・橋本・小渕等はことごとく悲業の死を遂げているとしています。
そこで、東京地検特捜部がこれまで摘発・失脚させた自民党政治家を列挙してみますと、すべて田中の流れを汲む「経世会」、対照的に岸系統の「清和会」の政治家たちは誰一人として逮捕されず全員安泰なのです。
(田中派) 田中角栄・ロッキード事件で逮捕
(経世会) 竹下 登・リクルート事件で失脚
( 〃 ) 金丸 信・佐川急便事件で失脚・逮捕
( 〃 ) 中村喜四郎・ゼネコン汚職で逮捕
( 〃 ) 小渕恵三・急死(謎とされている)
( 〃 ) 橋本龍太郎・日歯連事件で議員辞職後病死(謎とされている)
(清和会系)岸・佐藤・福田(赳)・中曽根・森・三塚・塩川・小泉・竹中・安倍などは安泰。
こうしてみると明らかに対照的であり、アメリカはCIAや公安警察が集めた秘密情報をもとに「国策捜査」を指示しているのではないか、あるいは彼らの無言の圧力を前に検察自身が自主規制に走るのではないかという疑念も湧いてくるとも言えます。
最後にそこまでもっていく「世論操作」があるのかといえば、前節でふれた有馬哲夫氏の「CIAと戦後史」にあるように、日本の大手マスコミはすべてCIAの支配下にあるか、アメリカ軍産官複合体とのコネクションがあるため、世論を誘導していると明確に申し上げられます。読売グループ総師の正力松太郎もまたCIAのエージェントだったのであり、当時1,000万ドルもの資金提供を受けて、アメリカのプロパガンダのためのマイクロ波放送網計画を進めたのでした。日本テレビの正式名に〝放送網〟が付いているのは、結局は頓座した計画の名残であるといわれています。こうして私たちは「in different way」の意味に、ようやく気付いたと申し上げてもよいかと思われます。

【参考文献】

「近代日本総合年表」第一版(岩波書店)
武者小路・姜・川勝・榊原「新しい『日本のかたち』」(藤原書店)
オープンコンテントの百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
保坂正康「昭和史七つの謎」(講談社文庫)
歴史ぱびりよん 概説・太平洋戦争 終戦工作その1
マスコミが隠してきた日本の真実を暴露するまとめサイト GHQの占領政策と影響
吉本隆明「現在はどこにあるか」(新潮社)
関東学院大学 自然人間社会
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ゴードン・トーマス『インテリジェンス 闇の戦争?イギリス情報部が見た「世界の謀略」100年』(講談社)
有馬哲夫『CIAと戦後日本(平凡社新書)
日経BP SAFETY JAPAN 諜報機関のない日本はひたすら富を奪われていく
ベンジャミン・フルフォード「暴かれた『闇の支配者』の正体」(扶桑社)
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