冷戦終了後の世界

1990年代から始まるポストコロニアリズム(植民地主義後の世界)の第二期を定義して武者小路は、「米国中心のネオリベラル・グローバルスタンダードをもとにした大競争の時代」といっています。そしてグローバル化とはモノとカネの動きが自由になることであり、金融自由化の結果漠大な投資(機)資金が儲けを求めて世界中を駆け巡る状況を作り出しています。余剰マネーが流れ込むと証券市場は活況を呈して土地や不動産の相場は実勢価格よりはるかに高騰し、実体経済以上の富がどこかに存在するかのような状態となり、これを”バブル”と言います。しかしどこかでマネーがショートすると、それをきっかけに実体の伴わない経済は中身のない風船(泡)に穴が開いたように急速にしぼんでいき、これが”バブル崩壊”と呼ばれ、信用収縮が一気に加速されることになります。
1980年代後半に始まって1990年代初頭に日本が経験したバブル崩壊は、現在まで続く長期的な低迷の要因となりましたが、その背景にはドルショック(1972年)以降のアメリカ経済の相対的地盤沈下があったことを忘れるわけにはいきません。また1997年にタイで始まり、マレーシア・インドネシア・フィリピン・韓国などの国々の通貨が次々に暴落し経済を破綻させた「アジア通貨危機」も、実態はバブル崩壊ですがその引き金を引いたのはアメリカのヘッジファンドだったのです。そして、その後これらの国々は経済立て直しのためにIMFの構造調整プログラムを受け入れるわけですが、結果的に更なる規制緩和と財政切り詰めに長く苦しむこととなるのです。
こうした1990年代の流れは、マクロ的には冷戦構造の終結により引き起された結果であり、それは一方で旧社会主義陣営が資本主義経済を受け入れると同時に、投資(機)資金の標的が、日本やアジアからよりグローバルに拡大するという新らたな構造をつくり出したのです。日本のバブル崩壊が冷戦構造終結の時期に一致するのも、投資家たちの眼が日本から徐々にグローバルに向かい始めたちょうどその時、折り悪しく金融引き締めがなされたことがきっかけだったと思われます。
姜に言わせれば、バブル崩壊以降の日本の構造的な行き詰まりはSCAPaneseモデル(40年=55年体制)に起因するものであり、「敗戦程の衝撃ではないにしても、その変化は、ある意味敗戦以上に深刻」かもしれないとされています。この発言の裏側に私は、湾岸戦争(1990~1991年)の経緯を読みとらざるを得ないのですが、この時日本が被った影響は、急激な原油高と135億ドル(当時のレートで1兆7000億円)もの戦費負担であり、これもまたバブル崩壊の一因ではあったのです。一方、日本が全く関与しなかったこの戦争は多国籍軍の圧倒的勝利に終わるのですが、そこで明らかとなったのはハイテク最新兵器によって実証されたアメリカの強大な軍事力であり、冷戦構造終了後の世界でアメリカはこの後唯一の超大国として君臨していくのです。武者小路がポストコロニアリズムの第二期のもう一つの特徴として、
「政治的には、冷戦期の多極化のもとでの米欧日共同覇権とはまったく異質の、米欧日三位一体の体制が米国を父なる神として成立している。つまり、冷戦後の多極化への動きを制する米国の一極・一方主義的な支配体制が、反テロ戦争をきっかけに確立した。」
と指摘するのもこのことに他なりません。
さらに、1990年代から始まるこの時期を武者小路は、従来の南北問題は意味をなさず、グローバルに中小商工業・農業・マイノリティなどの「インフォーマルセクター」が搾取される新植民地主義の時代と呼んでいます。アメリカの圧倒的な軍事力を背景にした米国のビッグビジネスが、第三世界・開発途上国・旧社会主義国のみならず、先進世界を含めてすべてを勢力下に置く構図は分かりますが、独立を果たした旧植民地国や先進世界の人々までがどうして搾取されていると言われるのでしょうか。その答えは”インフォーマルセクター”という言葉に潜んでいると思われます。
「世界社会開発サミット2000年」の国連特別総会の資料によりますと、グローバル化により途上国でも先進国でも雇用が不安定で孤立している人々が多くなり、金融危機によって各国が壊滅的な打撃を被る中で、労働法規の規制緩和が行われたためにインフォーマルセクターはますます増加していると述べられています。また各国における規制緩和・資本自由化・市場開放・投資保証などのルール作りの背後にはグローバル企業の影響が大きく、これが失業率の上昇と貧困をもたらしたとされています。また、国家社会主義と福祉国家資本主義の衰退により所得・雇用面での支援がなくなり、孤立無縁に陥る人々の数がかつてない程増大しているともいわれています。
また「自由貿易を掲げ、ネオリベラリズムの象徴であるWTO」に反対する「アジア連帯経済フォーラム2009」の北沢洋子氏によりますと、グローバル化がもたらしたのは、
(1) 地球上で13~15億の絶対的貧困層。
(2) 地球規模のすさまじい格差、-例えばGM・ウォルマート・エクソンモービル・フォード・ダイムラークライスラーなど巨大企業一社当たりの売上高は、49の最貧国のGDP総額を上回る。
(3) 世界経済のカジノ化、-巨額の投機資金が国境を超えて世界中を巡り巨大な利益を上げる一方、貧しい人々に災危をもたらしている
ということになります。こうした中、日本の現状は武者小路によれば、「もっぱら米国資本の導入によるグローバル化への適応にはげむ時代」とされていますが、私たちはようやくこの「アメリカという国」を検証すべき段階に到達したと思われます。

【参考文献】

「近代日本総合年表」第一版(岩波書店)
武者小路・姜・川勝・榊原「新しい『日本のかたち』」(藤原書店)
オープンコンテントの百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
保坂正康「昭和史七つの謎」(講談社文庫)
歴史ぱびりよん 概説・太平洋戦争 終戦工作その1
マスコミが隠してきた日本の真実を暴露するまとめサイト GHQの占領政策と影響
吉本隆明「現在はどこにあるか」(新潮社)
関東学院大学 自然人間社会
鶴見済公式ブログ バブル崩壊はなぜ起きるのか?
アジア連帯経済フォーラム2009 もうひとつの世界は可能だ?連帯経済はネオリベラルなグローバリゼーションに対抗する
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