依存度99.9%(資源エネルギー論2)
(2010年筆)
石油を上回る、あるいはそれを代替するエネルギーがないとすれば日本の石油依存度を下げることなど土台無理な話であり、逆に自給率の算定(原発を入れると17~8%に達する)は再計算されなければならないでしょう。原発も自然エネルギーも建設費などで8割が石油依存だとすると残りは水力だけとなり、-本当はこの建設や送電にも石油が使われることに目をつぶっても-自給率は4%以下と先進国中最低となります。そして化石燃料のうち75%を石油が占め、その自給率が0.1%であるとすれば、先程の「新・国家エネルギー戦略」のうち努力目標たり得るものは、一層の省エネだけとなるわけです。
図3‐14 GDPあたりの一次エネルギー消費量
出典:資源エネルギー庁
そこで、図3-14をご覧いただくと、これは一次エネルギー価格をGDPで割った値で、エネルギー効率を示すグラフとなります。そしてここから分かるのは、
(1) 日本が先進国中でもトップであること
(2) 日本の曲線は‚80年以来あまり低下していないこと
の二点です。政府がいうような威勢のいい省エネなど、このグラフが示す限りはちょっと無理、むしろ原油価格が高騰しつつある現在このグラフは上向いていくのではないでしょうか。
図3‐15 世界の原油事情
出典:「資源の世界地図」
では世界に眼を向けるとどうなっているか。世界の一日当たりの原油需要は2008年で8,699万バレルとされますが(図3-15)、2030年の予測はその1.4倍とされています。需要増の要因はBRICs諸国特に中国の石油消費量の増大で、2003年に中国は日本を抜いて世界第二位の石油消費国となったのです(図3‐16)。経済発展による電力需要の伸びや自動車の普及率の高まりもありますが、輸出の増大に伴う石油化学製品の増加もこれを押し上げています。2007年の世界の石油製品輸出額の46%を「MADE IN CHINA」が占めている状態です。しかしアメリカの消費量と比べると中国の現状はまだ序の口、一人当たり消費量アメリカ4,000リットルに対し中国は300リットル(2007年)というレベルで予測すると、2030年時点では現在の3倍以上の日量2.600万バレルに到達すると予測されています。一次エネルギーの石炭から石油へのシフトなども含めた中国の状況は、実は中国だけでなくBRICs諸国やその他の新興諸国も共通に抱えている問題であり、各国とも石油資源の獲得に必死に取り組んでいるわけです。
図3‐16 国別の石油消費量
出典:「資源の世界地図」
※ここで1バレルとは約158.9リットルを指しますのでご記憶下さい。政府の統計は、
kリットル単位だったり、重量tだったりバラバラです。重量に換算される場合は、
比重を0.8として計算されています。
このようなニーズの増大が原油価格の上昇に反映されることはいうまでもなく、1990年代に1バレル20ドル前後だった価格が2000年以後-とくにイラク戦争を境に-急騰し、そこに投機マネーの流入が拍車をかけて1バレル147ドルを付けたことは、ご記憶の方も多いのではないでしょぅか。金融危機後下落したとはいえ元の価格には戻らず、今また騰勢に向かっている背景には、地域紛争やテロなどの地政学的要因と新興各国の資源ナショナリズムがあることはいうまでもありません。2010年代に1バレル150~200ドル台を予測するアナリストさえいる程で、こうした原油価格の上昇は資源・エネルギー分野のみならずすべての産業に波及していくこととなるのです。例えば、2008年夏、漁船が一斉に休漁し一部の魚介類がスーパーの店頭から消えるという事件がありましたが、あれも燃料重油の大幅な値上がりのため漁に出れば出るほど赤字になるということが原因だったのです。かつては1キロリットル当たり2万円台だったのが2008年当時は12万円まで上昇、漁業関係者にとっては死活問題となったのでした。この年電力各社は電気料金を一斉に見直し、農家所得は減少して赤字となるところ(例えばハウス栽培ミカン)も出たのです。
まぁ、それでも高騰しているうちは日本の経済力をもってすれば何とかなるのかもしれませんが、問題は不足した時でしょう。石油の用途は40%が運輸・化学製品原料18%・鉱工業15%のほか、あらゆる分野で使われています。工場では”操業短縮”・交通機関の”便数減”・商店や事務所の”閉鎖”・家庭にあっては”入浴回数減”や”冷暖房のカット”を来すわけです。影響は国内だけではとどまらず、海運や空の便が減少することにより原材料の輸入や製品の輸出も滞りをみせ始めます。その果てに来るのは現代社会のゆるやかな停止であり、石油をぬきにしては現在の文明を語ることは不可能といえます。
エネルギー自給率4%に満たないわが国にとっては、原油の安定供給をはかることこそ死活問題といってよいのではないでしょうか。
【参考文献】
世界経済のネタ帳
日本生活習慣病予防協会
日本経済新聞2010年10月24日朝刊
ボルマー&ヴァルムート著「健康と食べ物,あっと驚く常識のウソ」(草思社)
田中平三監修「サプリメント・健康食品の『効き目』と『安全性』」(同文書院)
福岡伸一「生物と無生物の間」(講談社現代新書)
赤祖父俊一「正しく知る地球温暖化」(誠文堂新光社)
オープンコンテントの百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
日経電子版2009年11月26日
産経新聞2003年6月22日
【2010年ビルダーバーグ会議・緊急報告】”主役”不在の今年のビルダーバーグ会議。崩壊しつつある”グローバル・ガバナンス”の行方 (1) 2010年6月10日
農林水産省HP
ビジネスのための雑学知ったかぶり「日本の食料自給率は40%」
財団法人エネルギー総合高額研究所HP
シフトムHP
近藤邦明「環境問題を考える」
永濱・鈴木編「[図解]資源の世界地図」(青春出版社)
武田邦彦「温暖化謀略論」(ビジネス社)