日本浪漫派の思想

 日本浪漫派について調べている途中、私は偶然にも元赤軍派議長・塩見孝也のホームページに辿り着き、その中の[パトリ論](「さらば赤軍派-私の幸福論」より)に注目せざるを得ませんでした。
 塩見によれば、”パトリ”とは「民族の歴史の源にある、故郷、クニ」というもので、「人と自然が溶け合った郷、共同体」なのだと定義されます。
 そして「日本の左翼、マルキストは特にこれを国家主義、天皇主義的ファシズムと同義なくらいの先入観を帯びて見ている」が、それは間違いであり、「民族にまつわる様々な先入観を拭い去り、日本人-(中略)-の『物語』『神話』『社稷』、或いは『国体論』のエッセンスをも抱含するような、それらの言葉の底に流れる普遍的で共通な基礎をシンボライズする民族概念」として”パトリ”というものがあると述べています。
 また、「特攻隊の青年たちが身を捧げるに納得した、納得せざるを得なかった思想はまさに”パトリを守る”ということ」なのだとされ、その思想は「戦前日本共産党員」や「二・二六将校達の愛国心」にも共通すると説明されます。
 さらに塩見は、保田與重郎や日本浪漫派を批判して、「民族が危難に遭った場合、パトリ・パトリオティズムが働くのだが、『近代の超克派』は、その本性である人民主義の中で、帝国主義と侵略主義批判を換骨奪胎してパトリを働かせるというナンセンスなことをしようとした」と言い、彼らが”パトリ”を発見したことには一定の意義があったが、また限界もあったと捉えているのです。
 以上の塩見の言は、かなり正直に心情を吐露していると私には思われるのですが、それは「赤トンボと新左翼」で述べた「村」や「家」と、この”パトリ”とに共鳴し合うものを感じるからです。そして、”唯物史観”と”皇国史観”の類似性について述べた「単眼的トラウマ」に、私たちは再び遭遇しようとしているのだと感じてしまうのです。それはまた、プロレタリア文学運動解体(昭和9年=1934年)前後の思想的混乱の後、日本浪漫派が多くの作家たちの受け皿となり得たことと無縁ではなかったこととも関係しているのです。
 保田與重郎は奈良桜井の素封家に生まれ、高校時代に世阿弥論を書き、東大美学科では卒業論文にヘルダーリン論を書いたとされています。そして昭和7年(1932年)、伊藤静雄等と「コギト」を創刊し、その後亀井勝一郎等と創った「日本浪漫派」(昭和10年=1935年)は膨張に膨張を重ね、ついには太宰治や檀一雄等を巻き込んで戦時下の一大潮流を築いていくのです。
 橋川文三は「日本浪漫派批判序説」で当時の世相を振り返り、閉塞した状況を扇動的な美的言辞でくるんでしまうような思想で、多くの文学青年が保田の言葉を胸に死地に赴いたのだとしています。橋川が受け取ったメッセージは、「私たちは死なねばならぬ!」だったということで、「近代の日本において『死』をカリキュラムとして与えられた世代は他になかった」と書いています。確かに「コギト」が創刊された昭和7年は上海事変や5・15事件が起こり、昭和11年の2・26事件につながっていくのですが、「保田はそういう時期に平然と言霊を思索した。いや、言霊の奥から『日本』を思索した」と松岡正剛は述べています。松岡はさらに、保田は日本人の「原記憶」を古典のうちに読み込んでいったとしていますが、「保田の日本を現実の日本などと見ないほうがいい」とも述べています。
 つまり、昭和の青年たちが西田税系と井上日召系とに別れながら決起に駆られていくなか、保田が”透徹”を求めて思索している光景にふれ、北一輝の革命思想と保田の言霊とを峻別して、「のちに二・二六の青年将校たちの中途半端が批判されたこと」に関しても、「かれらは決起がクーデターになることをこそ排斥していたのだ」という視点を提出するのです。両者の差は、北一輝の「日本改造法案大網」にみられる国家社会主義思想が、第二章で述べる40年体制を予告するプログラムとしての現実性を持っていたのに対し、保田の思想は何らの具体性も持たず現実からは乖離していたとみるのが妥当だという点にあったのです。
 「軍部が大陸に戦線を開き独走する状況にある日本を『未だ完成せざる日本』として礼賛する。その一方で『日本主義者』から『世界史の哲学』に至るまで、日本の明るい未来を(西洋的に)具体的に言葉で語る者たちを軽蔑していた」と保田を恨む橋川ですが、松岡の文脈で考えると、保田はある意味思想に最も純粋だったのであり、橋川の批判も”イロニイ”と化してしまう過程がよく理解できると申し上げられます。そして、戦後保田等の責任を断じた者たちもかつてはそれに心酔したことがある以上、底流に流れる日本の「原記憶」を対象化することこそ、私たちの課題ではないかと思われるのです。なぜなら、惚れた相手がたとえ性悪な「悪女」であったにせよ、「女」であったことだけは確実なのですから。

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