いよいよ来た『断絶の時代』

 2007年の5月中旬、私の故郷の街で17才の男子高校生が母親を殺害、その首をショルダーバッグに入れて警察に出頭するという事件が起きました。署員が少年の自宅アパートに駆けつけたところ、布団の上で母親(47才)が頭部と右腕を切断されて死んでおり、腕は鉢植えの中に突きさしてあったというのです。少年は深夜に母親を包丁で殺害後、数日前に買っておいたのこぎりで頭部と腕を切断したというのですが、一緒にこのアパートに住んでいた弟は別の部屋にいて気付かなかったとのことでした。

 当時私は、既に東京に移って現在の仕事に取りかかっておりましたが、連日報道される新聞記事とTVから流される映像、さらにインターネットで流布される写真や動画に釘付けになったものでした。何しろその少年が住んでいたアパートは私の住居兼病院の建物から歩いて5分程のところ、映像には見慣れた家々や街並みが映し出され、パトカーや関係者のなまりに至るまで妙に懐かしさを覚えたのです。と同時に家に残して来た妻子のこと、特に-この少年と比べたらまだましですが-高校になじめずやはり挫折してしまった長男が思い出され複雑な気持ちになったのでした。

 その後この少年は家裁送致となり、そこで刑事裁判ではなく医療少年院送りとする保護処分になったようです。2001年の少年法改正-16才以上が重大事件を起した場合は原則として刑事裁判とする-が妥当であるかどうかは何とも言えませんが、うちの子の件に限っていえば、あの当時の学校や悪ガキや息子との話し合いを思い出すと沈痛な思いが湧き上がってくるのを今も押さえることができません。やはりこうした子供たちのことは私たちの時代が生み出した結果であり、大人たちがその原因をいつかは正さなければならないと思われます。

 件の少年に関していえば、評論家や学者がさまざまにコメントしていますが、いずれも本人の心のひだを解明するには程遠いという感じが私にはしました。それよりも少年の実家が私の街から1時間位の山あいの町であること、そこは日本でも有数の豪雪地帯であり、1971年の鉄道全通までは冬期間国道も通行止めとなっていたこと、その先の新潟県側の地域こそ、田中角栄が近代化を悲願とした地盤であったことなどが印象的に思い出されたのです。そうした土地柄に育った少年が、わずか15才でアパート暮らし-それも私の街は伝統と風俗が同居している閉鎖的城下町といってよい-を始めた頃、少年の眼には何が映っていたのかと考えてしまいます。決して誰に強制されたわけではないが、「家」や「村」から離れていくことがその地の"掟"であることが認識された時、少年にはもう帰るべき場所がどこにもなくなっていたのかもしれません。

 ところで、P・F・ドラッカーの「断絶の時代」が日本で出版されたのは1968年のことでしたが、それはベトナムでアメリカが泥沼の戦争に入りこみ、国内では1970年安保に向かって反戦ムードが高潮していた時代でした。私たち新左翼はこの本を自分たちとは関係ないビジネスや大企業に関するものとして、軽蔑しながら遠ざけていたのでした。しかし今この本の内容をみてみますと、産業構造でみると戦前と戦後は連続しており、不連続=Discontinuity(断絶)はこれから始まるという主張がベースとなっており、「時代区分への懐疑」で検証してきたテーマと共通しているのに気が付きます。ドラッカーはそこで変化に対応するイノベーションが産業の各分野で必然的であり、グローバル化に組織が対応すべきこと、肉体労働に変わってインテリジェントな労働がより付加価値を増大させることなどを提唱したのでした。

 ではその後アメリカはどうなったか、日本や世界はどうなったのかは既に「日米関係への視座」で検討してきたところですが、結論から言えば日本は危機的な状況にある、それは制度的なものでもあり私たち一人一人の主体の問題でもあるのだ、と本コラムでは考察してきたわけです。今ここでこの危機に対処しなければ、それは社会の深部にまで浸透して子供たちやさらにその後の世代までをも巻きこみ「病膏盲に入る」ことは、ここまでお読みいただいた読者にももうお分かりいただけたと思います。そこでここでは身近な分野を取り上げながら、私たちはどこで間違いを犯してきたのかを具体的に論じていきたいと考えております。閉鎖的思考回路はどこなのか、単眼的トラウマに陥ってはいないのかを検証することで、変化への方向性を示すことができるかもしれないと思うからです。

参考文献
世界経済のネタ帳
日本生活習慣病予防協会
日本経済新聞2010年10月24日朝刊
ボルマー&ヴァルムート著「健康と食べ物,あっと驚く常識のウソ」(草思社)
田中平三監修「サプリメント・健康食品の『効き目』と『安全性』」(同文書院)
福岡伸一「生物と無生物の間」(講談社現代新書)
赤祖父俊一「正しく知る地球温暖化」(誠文堂新光社)
オープンコンテントの百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
日経電子版2009年11月26日
産経新聞2003年6月22日
【2010年ビルダーバーグ会議・緊急報告】”主役”不在の今年のビルダーバーグ会議。崩壊しつつある”グローバル・ガバナンス”の行方 (1) 2010年6月10日
農林水産省HP
ビジネスのための雑学知ったかぶり「日本の食料自給率は40%
財団法人エネルギー総合高額研究所HP
シフトムHP
近藤邦明「環境問題を考える
永濱・鈴木編「[図解]資源の世界地図」(青春出版社)
武田邦彦「温暖化謀略論」(ビジネス社)