精神疾患の本質に迫る 2020年3月

皆さんお元気ですか、朝比奈です。20.03.png

先月、精神科臨床50年以上という精神科 医の本(YES/NOで1冊だけ出て 来た)を読んで驚きました。というのは、 さまざまな精神疾患も根は一つなのだが、 個々の病名とこの根っこについて明確な 理論は未だ存在せず、末端の医師達は表 面的な症状を抑えるだけの対症療法しか 行っていない。精神病をその原因から成 りたち・治療までキチンと説明できる医 師は未だいないという事だったからです。
実は、近代以前の精神病者は魔女狩りや監禁の対象だったのであり、収容中は鎖・皮帯などで拘束され、冷水灌水法・拘束回転療法などといった手荒な処置を施されて一生を終えるのが通例だったようです。そして、100年前に独のクレペリンが精神障害を早発性痴呆と躁鬱病の二つに分けた所から近代精神医学が始まるのですが、その後のウェルニッケなども精神病を「脳の器質的疾患」と捉えたため、20世紀に入っても持続睡眠・インシュリンショック・電気ショックといった手荒な方法が用いられ、その最たるものが前頭葉切除(ロボトミー)とされています。このような状況を変えたのが、戦後偶然発見されたクロルプロマジンのドパミン抑制効果で、その後急速に薬物療法が進歩。しかしこの第一世代の抗精神病薬は陽性症状には効くが陰性症状は却って悪化してしまう。そこで今度は陰性症状改善のため第二世代の抗精神病薬が次々と開発されるのが90年代。そして今は、製薬会社の能書に従って病名が細分化され、混乱する現場では出口が見えず、多剤大量処方の弊害だけが残ってしまうとのこと。
しかし、転機となったのは、ごく最近開発された発達障害の薬を大人の精神病者に応用したことで、これが非常に奏功した所から、「多様に見える精神病もすべて発達障害の多面的病像であるに過ぎない」という単一精神病論が正しいことが立証された。精神障害者というのは、元々対人関係が苦手だったり、思考や行動に独特の癖があるため社会的につまづきやすく、それは脳とか感覚のある種の特徴なのだというのが著者の結論。そうした人々を隔離して崩壊・破綻していく人間性を恐ろしげに観察した古い医学と訣別し、霊や悪魔との関係など云々するのをやめ、科学的にアプローチしていくことが21世紀の精神医学と言えるわけです。
では、来月またお目にかかりましょう。